このシステムが他の歩行支援システムと異なる最大の特長は、下り段差を検知できることです。障害物検知については様々な検出方法が考案されていますが、下り段差や穴など「何もない空間」について検出できるものは実用化されていません。しかし、実際の歩行をイメージしますと、上り階段に気づかずにつまずくことよりも、下り段差に気づかずに転落するほうが、はるかに大きい事故になる可能性があると考えられます。
特に駅のホームからの転落事故が大きな問題となっています。ホームから転落して電車と接触することも大きな事故になりますし、単に転落しただけでも骨折などの大けがになることがあります。日本盲人会連合が平成23年2月に実施した視覚障がい者のアンケート調査によると、アンケートに回答した人の実に4割弱の人がホームから転落した経験があると回答しています。実際、展示会などで視覚障がいの方にお話を聞くと、駅のホームから落ちたことがある人が多くて驚きます。落ちたことが家族にわかったら外出を禁じられてしまいそうで家族には話せない、というような人もいましたし、もしかしたら転落の経験以降、外出が怖くなってしまう人もいるかもしれません。鉄道各社はホーム柵の設置を進めていますが、全国の駅にホーム柵が設置されるまでにはまだ時間がかかると思います。
そういう状況の中で、当社の歩行支援システムは、駅のホームからの転落を防ぐための危険防止のツールとしては非常に有効だと思っています。例えば、視覚障がい者は一度転倒してしまって立ち上がりますと、転倒する前にどちらの方向に進んで歩いていたのかがわからず、立ち上がってからもどちらの方向に進めばいいかわからなくなってしまいます。このような場合、地図アプリなどで方角を確認してから歩き始めますが、駅のホームで転倒した場合であれば、まずは安全なところに移動することが最優先です。すぐに当システムで段差を検知し、ホームの端にいるのか否かを確認し、ホームの端にいるのであればそこから安全な位置に向かって移動することができます。そのような「いざというとき」のしくみとして利用してもらえたらと思っています。
危険を検知した場合の警報についてご紹介します。歩いている前方に障害物があると、「ポンポン」と低い音で警報を発して視覚障がい者に障害物があることを知らせます。監視範囲内に障害物がある間はこの警報が鳴り続けます。この機能を使って、たとえば壁を探し、壁にそって歩くことも可能です。
障害物があるときは低い音が鳴る
歩いている前方に、下り段差があると、「ポンポンポン」と高い音で警報を発します。監視範囲内に障害物がある間はこの警報が鳴り続けます。離れれば警報が止まります。この機能を使って、下りの階段があることやホームの端に近づいていることを認識できます。
下り段差があるときは高い音が鳴る