映像を見るという同じ行為でも、経験が異なるわけですね。
藤井:そうですね。また、VRは会話のきっかけづくりにも大きな役割を果たすと思います。たとえば、介護施設で入居者の皆さんと同じコンテンツを同時に見る場合、一緒に現地に行ったかような体験ができます。
思い出を共有できることに価値があるということでしょうか。
藤井:他者とのコミュニケーションは、脳に刺激を与えますからね。「ここにこんなものがあるね」「どこ?」「あーあった!」のように、喋りながら見ることで思い出が共有されるわけです。「あそこの桜が綺麗だったね」「私、見損ねた」みたいな会話ができるんですよね。テレビを見ているだけでは、こうした会話にはなりません。
VRは五感のうち、視覚だけにアプローチするわけですが、どうしても“すべての感覚器官を刺激する現実”での体験を超える価値を提供するのは難しいのではないかと思ってしまいます。
藤井:現実に旅行するのと、VRで旅行するのとでは、情報量としては圧倒的に違いますよね。「香りがない」「風がない」「触れない」など、感覚から得られる情報に差があります。そのため、仮想現実と現実をくらべることは無理なことです。しかし、体験は全部脳の中に蓄積されるもの。ということは、脳が体験したと思えば、経験の価値に優劣はないということになります。記憶というのは、五感をフルに活用した現実の経験が必要とは限らないのです。
確かに、記憶を思い起こすときには、嗅覚も触感もあまり関係ないかもしれません。
藤井:ただ、香りを嗅ぐと記憶が蘇ることもあります。しかし、香りがないと思い起こせない記憶は、記憶とはいいません。「旅先の海の匂いを覚えている」と言うことがありますが、その海の匂いを脳内で再現できるかというと再現はできないんです。そう考えると、“体験から得られる記憶”という意味では、仮想現実と現実の優劣はないと言えるのではないでしょうか。
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