まず、「袖縁」のアプリを開発しようと思われたきっかけから教えてください。
友枝敦氏(以下、友枝氏):私は、会社員としてメーカーやシンクタンクで、医療からAIまで多種多様なソフトウエアを開発してきました。その間、障害を持つ人と直接知り合うことはなかったのですが、私の同僚の友人が視覚障害者で、その同僚に「友人が駅が怖いと言っている。ICTで何とかならないか」と相談を受けたんです。実際に駅で線路内に転落して亡くなる視覚障害者がいることは知っていたので、自分自身も何かできないかと思うようになりました。
それから、会社に事業提案をしようと思ったのですが、人の生死を左右するようなツールの開発はハードルが高かったんです。そこで、昔からの仲間3名で、ライフワークとして、開発に挑戦してみることにしました。
どのようなアイデアをもとに、「袖縁」アプリを開発されたのでしょうか。
友枝:視覚障害者の線路内への転落を防止するということであれば、ホームドアを付ければ解決するわけです。しかし、どれだけ安全策が充実しても、社会全体の配慮という観点が欠けたままでいいのだろうかと考えるようになりました。極論ですが「設備や環境は整えるから、あとは一人で頑張って」というのは、共生社会と言えないはずだと思ったんです。
そこで、改めて駅を観察し直してみたんです。すると、行き交う人の大多数がスマートフォンばかりに目をやり、なかにはスマートフォンを見ながら、点字ブロックの上を歩いている人も。これはホームドアだけの問題ではないと気づきました。新聞などでも、視覚障害者の方が点字ブロックの上を歩いているときに、人がぶつかってきて怒鳴られたという記事を目にして、これは配慮する側と、配慮が必要な側、両方にアプローチするツールを開発しなければと思いました。
最初は、白杖にBluetoothをつけて、近くのスマホ中の人に振動や通知で注意を促すようなツールを考えていました。しかし、「白杖を持って電車に乗ると大体痴漢に遭う」という話を当事者からお聞きし、方針転換を決断。困りごとに遭遇した当事者が手助けを依頼することで、近くの合理的配慮事業者(以下、事業者)のスタッフが手助けするツール、とすれば安心安全も担保されるのではないかと考え、「袖縁」のもとになるアイデアが決まりました。
安全を最優先に考え、事業者による合理的配慮の一環のアプリとして活用してもらうべく開発を進めたと話す、友枝氏