井上先生は、ICT端末を活用して、自閉症や情緒障害を持つ児童に学習機会を提供しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
井上賞子教諭(以下、井上):さまざまな学習場面で、学びにくさを抱えて困っている子に出会うと、「この子はどんな支えがあれば学習に参加できるのだろう」と試行錯誤するのですが、そこで大切になるのが、「この困っている姿が起こる背景は何だろう」という視点です。
しかし、「この子には音の情報を補うことが必要ではないか」と仮説の立つケースであっても、アナログの手立てでは音を付けてあげることが難しいなど、具体的な手立ての選択肢が持てずに悩むことがありました。
任天堂DSを使って漢字や計算の学習をしたり、パソコンソフトなどを導入したりしたこともありましたが、子どもたちの多様な学習場面やニーズに沿ったものを提供するのは、なかなか難しかったです。
そんな折、iPadが発売されました。実機を見たことも触ったこともない時から「これは絶対によい手立てになる」と強く感じ、まだカメラがついていなかった第一世代から学習に導入しました。
井上先生ご自身は、以前からデジタルに詳しかったのでしょうか?
井上:いいえ、どちらかというと機械音痴です。今も決して詳しいほうではないと思います。でも、「魔法のプロジェクト」に参加しiPadを貸与していただいたので、わからないことはプロジェクト内におられる全国の詳しい先生方に質問しながら、学習に活用することができました。今もそのつながりに、たくさん助けられています。
デジタルに強いわけでなくても、アナログで積み上げてきた手立てがあったからこそ、「この部分ではデジタルの方がより効果的だ」と気づけたり、子ども達の実態に応じて双方の良さを組み合わせたりして、支援につなげることができたのではないかと考えています。
例えば、iPadのアプリだと漢字の形や線の動きをとらえやすく、間違えても消す負荷がないため取り組みやすいという良さがあります。しかし、繰り返して練習しようとするとデータが上書きされてしまうものも多いです。そのため、定着に向けた学習へつなげようと思うと、その子に応じた量と様式の検討をした上で、書き込み式のドリルやノートも併用することもあります。