最初に、「Palm Beat」開発の背景からうかがえますでしょうか。
電通 阿部光史(あべ・みつし)さん:私と大江が所属している、電通のデジタル・クリエーティブ・センターでは、デジタルを活用したサービスや製品のアイデアを出し合うというプロジェクトを推進していました。各メンバーが自主的にアイデアを出すのですが、私と大江と、もう一人のメンバーである遠藤が考えたのは、「テクノロジーの力で困難を抱えている人の課題解決になるものを作れないか」ということでした。
最先端のテクノロジーで社会をよくする取り組み「Technology for Good」が、世界的に広がる中で、我々としても何かできないかと思いました。その頃、私が聴覚障害のある人がカラオケを楽しんでいるニュースを偶然目にしたんです。それがきっかけで、音楽とテクノロジーで、聴覚障害を持つ人に役立つものを作れないかと考えました。
その後、色々調べていると、筑波大学附属聴覚特別支援学校小学部の山本カヨ子教諭(当時)の対談記事を見つけました。同校は聴覚障害児の合奏コンクールで常に上位を取っており、また山本教諭の聴覚障害児の音楽教育への熱意を感じました。そのため、聴覚障害はもとより、音楽教育にも詳しいに違いないと思い、開発に携わっていただくことにしました。
「山本先生とは面識がなかったので、学校に直接電話してみんなで突撃しました」と当時を振り返る阿部光史さん