実際に「Palm Beat」を使って、テンポやリズムの理解に変化はありましたか?
山本カヨ子さん:これまで、テンポやリズムを教える際には、生徒の肩を叩くなどしていましたが、思うような効果が得られず長い間の課題でした。ところが、「Palm Beat」を初めて使った段階で、「分かった!」と目を輝かせる生徒が続出。本人たちも曖昧だったリズムが理解できたことに心から喜んでいる様子が見られました。
私としても、これまで「どうしたら正確にリズムを伝えられるのだろう」と試行錯誤してきたので、こんなにすぐに理解できることに驚きました。また、これまではそのリズムを頭では理解できていても、正しく表現することが難しかったです。また、なんとかできるようになっても、次の授業のときにはできないことが多く、学習が定着しませんでした。でも、「Palm Beat」を使って練習するとしっかり定着しており、これにも驚かされました。恐らく、振動感覚や視覚感覚を使ったことで、定着がはかられたのだろうと思います。
筑波大学附属聴覚特別支援学校では、「Palm Beat」を使った特別授業を実施した
開発をご担当された皆さんは、どのような感想をお持ちになりましたか?また、今後の展望がありましたらお聞かせください。
電通 阿部光史さん:「テクノロジーで困難を抱える人の課題を解決する」という目標を掲げ開発に取り組んできましたが、結果として先生や生徒に喜んでもらえたというのが、一番嬉しいですし、手ごたえを感じました。筑波大学附属聴覚特別支援学校の取り組みを交えたプレスリリースを出したところ、ほかの聴覚支援学校などから問い合わせを複数いただき、反響の広がりを感じています。今後、ニーズが高まれば、製造販売も視野に入れたいと思っています。
電通 大江智之さん:これまで聴覚障害について知る機会がありませんでした。そのため、当初は抱えている困難について想像するしかなかったのですが、実際に子どもたちが学習している現場に伺うことで、具体的な課題を発見することができました。その課題を解決するべく、さまざまなプロトタイプを作ったのですが、本当に子どもたちに受け入れられるのか、不安に感じたこともありました。でも、現場に足を運び、課題を自分の目で見て、指導している先生の話を聞けたことで、聴覚障害児の音楽教育にとって意義のある「Palm Beat」というデバイスを生み出すことができたと思っています。
電通 大江智之さん
ピラミッドフィルムクアドラ 阿部達也さん:僕は、クリエイティブの力で世の中をポジティブにする仕事がしたいと思い、クリエイターの道を選びました。その意味では、今回のプロジェクトは、自分が手掛けた仕事の中でも、「障害のある人がより良く生きていくためのツールを開発する」という、責任が重いものでした。でも、子どもたちの変化を目の当たりにして、本当にクリエイター冥利に尽きると感じましたし、自分がこの仕事を選んだ原点に気づかされました。この経験を糧に、これからも誰かの課題解決につながるようなものを生み出していきたいと考えています。
ピラミッドフィルムクアドラ 阿部達也さん