「Palm Beat」は、聴覚障害児が音楽のリズムやテンポ(楽曲の速さ)を感じとる学習のため開発されたということですが、どのようなデバイスなのでしょうか。
電通 大江智之さん:「Palm Beat」は、デバイスの光と振動を通して、先生が教えたいリズムやテンポを複数の聴覚障害児に同時に伝えることができるものです。先生は指揮棒型のデバイスを、生徒はたまご型のデバイスを手に持ちます。この2つのデバイスは、赤外線で通信をしています。指揮棒型のデバイスの振動に合わせて赤外線の信号が出て、たまご型デバイスの受信機がその信号を受信します。いわば、指揮棒型のデバイスがリモコンで、たまご型デバイスがエアコンやテレビの本体、といったような関係と同じです。たまご型デバイスの光と振動が手に伝わり、リズムやテンポを把握することができます。
Bluetoothも検討したのですが、スマートフォンなど他の機器でもよく使われるので、混線が予想されるのと、通信に若干の遅れが出てしまいます。そんなに遠い距離で使うわけではないので、信号を確実に届けるために、赤外線が妥当だろうという結論に至りました。
「Palm Beat」は電通が企画し、ピラミッドフィルムクアドラの制作協力で完成した
具体的な使い方を伺えますでしょうか。
ピラミッドフィルムクアドラ 阿部達也さん:まず、信号の発信方法は「指揮棒デバイスを振る」「指揮棒デバイスに付いているボタンを押す」を選択できます。振る場合は振ったときの勢いが信号に変わり、ボタンを押す場合は押す長さが信号に変わります。たまご型デバイスがその信号を受信すると、光と振動に変換され、テンポやリズムが手に伝わります。先生と生徒の距離の目安としては3m〜4m以内で、ひとつの指揮棒型デバイスから多数のたまご型デバイスに、信号を一斉に伝達することができます。
指揮棒デバイスのボタンを長押しするとそれに応じて振動も長く続く
デザインが特徴的ですが、どのようにして決められたのでしょうか。
電通 阿部光史さん:子どもの手になじみやすいものがいい、ということでアイデアを練りました。チームで話し合いながら、最終的にたまご型に落ち着きました。光と振動が伝わればいいので、デザインはもともと重要ではありませんでしたが、結果として子どもに愛されるフォルムのデバイスを作れたのではないかと思います。
山本カヨ子さん:私としては、子どもに「落としたり壊したりしちゃダメ」と言わなければいけないようなものではなく、子どもが楽しく気軽に使えるものがいいと考えていました。できあがったサンプルの子どもの手のひらサイズのかわいい形を見て「これは子どもたちが喜ぶだろうな」と直感しました。楽しくなって落としそうになる子どももいるかと頭をかすめましたが、次に持ってきていただいたときには、ストラップを付けてくださっていたので感激しました。