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情報アクセシビリティとは何か(6/6)

6. どこから着手するか

最も困難を感じている人のニーズから順番に

最後に残されたのは、アクセシビリティの改善について、どこから手をつけるかということです。この課題については、「まず障害者のニーズに応えるように」という考え方を筆者は提案したいと思います。それは、高齢者・障害者等という大きな範囲よりも、ニーズが明確に定義できるからです。

その機器、ソフトウェア、あるいはサービスを利用しようとしたとき、もっとも困難を感じる障害者を見つけ出し、それに対する解決方法を実現します。それが終わった後には、次に困難を感じている障害者群を見つけ、それを解決します。これを繰り返していくことで、製品のアクセシビリティを向上し続けていきます。これが筆者の考え方です。

障害者に分類されていなくても、我々は情報の受発信に困難を感じることがあります。情報行動について言及した際にすでに説明しましたが、障害者に配慮してアクセシビリティが確保されていれば、そのような困難が解消される場合があります。障害者のアクセシビリティを確保することが、より大きな効果を生むことになります。

最近、通勤電車の各ドアの上にテレビが設置されています。車内ということで、音声は提供されていません。そんな車内テレビに無音で、映像だけで情報が提供されても、それが何を意味しているのか理解できないことがあります。家庭で見慣れたコマーシャルも、電車の車内では、別のものと感じます。そんなとき、コマーシャルに的確に字幕が付与されていると、その意図を理解することができます。テレビという映像機器は、聴覚障害者には利用がむずかしいものです。しかし、字幕付き放送であれば、聴覚障害者でも、番組の内容を把握することができます。そして、そのように字幕が付いた番組を通勤電車の車内で放送すれば、多くの乗客がそれを見て楽しむことができます。この例のように、障害者に対する配慮を進めることで、それに分類されない人々も利益を得ることになります。

障害者ニーズに応えることが他の利益になる

インターネット上にあふれる情報を検索するために、情報検索エンジンを利用します。個々のウェブサイトに何が掲載されているかを調べ、データベース化します。利用者からキーワードが送信されてくると、データベース内を検索し、的確なウェブサイトを利用者に示すというのが、情報検索エンジンの仕事です。

情報検索エンジンで情報提供される順番に、利用者がウェブサイトを閲覧するというのが普通です。そこで、早い順番に情報検索エンジンでリストアップされるということが、利用者を自分のウェブサイトに誘導するための戦術となります。インターネット上には、そのような戦術について、情報を提供する多くのウェブサイトがあります。これを専門的には、情報検索エンジンによるヒット率の向上といいます。

それらの戦術を読むと、面白いことがわかります。「ウェブサイトの内容や、ページの内容をきちんとした文章(テキスト)で表現する」、「『METAタグ』と呼ばれる、情報検索エンジン用のウェブサイト紹介情報を掲載する」、「リンク先や写真などに関する説明文を必ず記述する」といった戦術は、実は視覚障害者のためにウェブサイトを利用できるものにするための注意事項とまったく同一なのです。これは、ロボット型の全文検索型のエンジン検索対象が、ウェブサイト内の文字列(テキスト)に限られるからに他なりません。不適切を承知の上で、あえて表現すれば「情報検索エンジンは視覚障害者である」ということなのです。

こうして、視覚障害者に配慮してウェブサイトを設計するということが、多くのウェブサイト提供者に、自分のウェブサイトに利用者を多く誘導するという利益をもたらします。一方、利用者は、必要な情報にすぐにたどり着ける可能性が高くなります。これも、障害者のニーズに真っ先にこたえることが、他の効果も生むということを示す事例です。

情報アクセシビリティとは何か。それを実現していくには、何を考えたらよいのかというようなことについて、基礎的なことを説明してきました。障害者基本法が改正されたことをきっかけとして、これから、多くの企業で、また政府、地方自治体で情報アクセシビリティへの取り組みが開始されることが強く期待されます。

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東洋大学経済学部 山田肇教授

山田肇教授の写真

NTTにてR&Dマネジメントを担当後、東洋大学経済学部教授に着任。
専門は情報メディア経済。
情報バリアフリー分野の日本工業規格の制定の原案作成などに関わる。
著書に『情報アクセシビリティ』(NTT出版/山田編著・中村共著)
『情報アクセシビリティとユニバーサルデザイン』(アスキー/山田・中村他共著)
『技術経営』(NTT出版/山田編著)

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