3)シナプスの可塑性 (ショウジョウバエ胚シナプスの生理学)

単一シナプス小胞の細胞膜への融合により生じる微小シナプス電位が突然何千倍にも頻度を変えることは、FattKatzによる最初の微小シナプス電位の発見と同時にすでに観察されていた(図5)。 我々も、可塑性の高いショウジョウバエ胚神経筋シナプスにおいて、FattKatzが観察したものと同様の微小シナプス電流の大きな変化を見つけ(図6)、これが記憶を支えるシナプス可塑性の鍵であると予想した。そこで、これを制御する高頻度刺激プロトコルを考案し、神経刺激によって微小シナプス電流の劇的な頻度上昇を誘発することに成功し、この現象をHigh Frequency stimulation-induced Miniature Release (HFMR)と名付けた(図6)。このプレシナプスの可塑的変化がポストシナプスからのシナプトタグミン4を介する逆行性シグナルに依存することを私たちは見出し、一連の解析を元に、記憶の分子細胞メカニズムに関する全く新しい一般仮説”ローカル・フィードバック仮説”(図7)をサイエンス誌に発表した。現在は、これがヘッブの可塑性による記憶の原理である可能性を追求している。

5. Katzの見た微小シナプス電位の亢進 (左; Fatt and Katz, 1952)と私たちが見た微小シナプス電流の亢進(右;Yoshihara et al., 2000

6. High Frequency stimulation-induced Miniature Release (HFMR;高頻度刺激誘発伝達物質放出)

7”ローカル・フィードバック仮説”

Yoshihara et al., (2000) J. Neurosci., 20: 8315-8322.

     Yoshihara* et al., (2005) Science 310:858-863. *Corresponding author.

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