航空機や人工衛星にセンサを搭載し、空から観測することで地球規模の地表観測システムを構築できます。空からの観測は広範囲を瞬時に観測できるため、地形図の作成、災害時の被災状況把握、森林・社会インフラのモニタリングなどさまざまな用途に利用されています。人間が歩いて測量することが困難なほど広い地表も、空から俯瞰的・面的に観測することで短時間に計測することが可能となります。最も身近なものは航空写真であり、多くの人が自分の住む町を航空写真によって上空から見たことがあるかと思います。
我々の研究室では航空機搭載合成開口レーダー(以後、「航空機SAR」と呼ぶ)の機器開発と観測・解析技術に関する研究を行っています。航空機SARは航空機の進行方向に対して直角方向の斜め下方向の地表にマイクロ波帯の電波を照射し、地表からの後方散乱波を観測するアクティブセンサです。そのため、夜間でも安定して観測可能であり、また、マイクロ波帯の電波は雲などを透過するため、光学センサ(可視光センサなど)による観測が困難な場合でも地表を観測可能という特徴があり、光学センサと併用することで安定的な地表観測が実現できます。さらに、航空機SARはパルス圧縮技術と合成開口技術を用いることで、非常に高い空間分解能を達成しています。
NICTでは1990年代から偏波観測機能と干渉観測機能を有した航空機SAR、Pi-SAR(Polarimetric and interferometric airborne Synthetic Aperture Radar)シリーズの研究開発・運用してきました。第1世代Pi-SAR、第2世代Pi-SAR2に続き、2021年から試験観測中の第3世代Pi-SAR X3では、約8,400mという観測高度から15cmという高い分解能で地表の様子を捉えることができます。また、Pi-SAR X3は高い分解能に加え、干渉観測・多偏波観測などの多数の観測モードを持ち、環境モニタリングや災害モニタリングなどのさまざまなミッションに対応可能です。
児島 正一郎(研究マネージャー)
1999年東北大学大学院博士課程修了。1999年運輸省港湾研究所(現国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所)に入所。2002年通信総合研究所(2004年情報通信研究機構に改称)に入所。入所後、海洋レーダーの研究開発に従事。2009年より、環境モニタリングや災害モニタリングを効果的かつ効率的に行うための航空機搭載合成開口レーダーの研究開発に従事。博士(工学)。
上本 純平(研究マネージャー)
2008年東北大学大学院博士課程修了。同年にNICT入所。超高層大気物理に関する研究に従事。2016年より現職。現在は航空機搭載合成開口レーダーに関する研究に従事。博士(理学)。日本リモートセンシング学会、日本写真測量学会、地球電磁気・地球惑星圏学会所属。
牛腸 正則(研究員)
2021年新潟大学大学院博士課程修了。18年NICTに入所。航空機搭載合成開口レーダーを用いたリモートセンシング、およびレーダー信号処理に関する研究に従事。博士(工学)。電子情報通信学会所属。