トップページ 総務省実証実験について CEATEC JAPAN2002
10月2日(水)の講演、「高齢者及び視覚障害者のウェブ利用の障壁」のプレゼンテーション資料を公開しています。
以下に、資料からテキスト部分を抜粋したものを掲載しています。
社会との大切な接点、貴重な情報源として、ウェブは障害者・高齢者にとって重要なメディアとなっています。
ウェブやパソコンは、利用者の様々な機能を前提として設計されています。例えば、操作方法や履歴の理解は、過去の記憶や学習操作方法の連想、類推を、入力・操作はタイプ、クリック、ドラッグなどの手の動作を、画面に表示される情報の取得と理解には、視覚や聴覚による情報取得や、受け取った情報の解釈を前提として設計されています。したがって、これらの機能に制約のある人には、ウェブやパソコンの利用が困難となったり、利用できないことがあります。
機能の制約により、ウェブの利用上、様々な問題が生じます。以下は利用者の特性と代表的なウェブ利用上の問題点です。
様々な機能制約を持った利用者が問題なくウェブ上の情報や機能を利用できることです。
コンテンツと利用環境が協調してアクセシビリティを実現します。また、コンテンツの配慮によって、達成できるアクセシビリティに格段の差が出ます。つまり、アクセシブルなコンテンツと多様なアシスティブテクノロジーの両方を用意することによって、幅広い利用者が利用可能となります。
規格・指針 | 概要 | アクセシビリティ・ユーザビリティの定義 |
---|---|---|
ISO/DTS16071 | インタラクティブシステムのアクセシビリティ | 検討中(現案はユニバーサルデザインの考え方に近い) |
ISO/9241-11 ISO/WD20282 | ユーザビリティ | 特定ユーザによって使用される製品が、仕様状況下において、効果的、効率的、満足度をもって特定目標に到達しえる程度。 |
W3C(WAI)/WCAG1.0, 2.0 | ウェブコンテンツアクセシビリティ | ある障害を持っている人がコンテンツを利用することができた時、そのコンテンツはアクセシブルだと言える。 |
米国リハビリテーション法508条 | 連邦政府が調達するシステムに関する基準 |
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単に「アクセスできる」だけでは、実際に高齢者・障害者が利用できるウェブにはなりません。支援技術も含めた利用特性を考慮し「実用レベルのユーザビリティ」の確保が求められます。
実証実験の主な取り組み内容は次のとおりです。
「テキストを中心に」、「画像にはAlt」など、ウェブアクセシビリティの認識は広がってきました。ところが、高齢者・障害者のウェブ利用特性利用上の問題は、把握が不十分で情報が行き渡っておらず、あまり認識されていません。つまり、高齢者・障害者にとっての「実用レベル」でのアクセシビリティ確保が難しくなっており、利用特性調査が必要となります。
実験協力地域の高齢者・障害者グループに協力を依頼しました。利用者グループに、ある課題に沿ってウェブを利用してもらい、観察・インタビュー等で情報を収集しました。
連想や解釈を要する利用プロセスが、利用上の戸惑いやつまずきの元になります。
主な戸惑いやつまずきを、以下の8点にまとめました。1から3はサイト発見までの操作、4から8は特定のサイト内での操作に関するものです。
検索キーワードを適切な結果が出るように調整できません。キーワードを変えて検索をし直す人はあまりいませんでした。
メニューのわかりにくさは、サイト利用の敬遠や操作の断念につながります。
多くの高齢者は「巻き物」風にウェブを理解するため、新規ウィンドウが開く遷移が混乱のもとになる、と推定されます。
支援サービスやツールの進化が期待される項目と、各ウェブサイト提供者の配慮によって解決すべき項目とがあります。
サイト利用上の問題 | 配慮の方法 | 解決の方向性 |
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1.キーワードをうまく設定できない | 高齢者が設定したキーワードで検索できるサービス | 高齢者向けサービスやツールの拡大に期待 |
2.目的のページかの判断に時間かかる | ページタイトルをわかりやすくつける | ウェブサイト提供者の配慮 |
3.初めの方に見つけたサイトを忘れる | ブラウザの履歴ナビゲーション機能を充実させる | 高齢者向けサービスやツールの拡大 |
4.メニューボタン数と名前がわかりやすさに影響 | ユーザーの視点で、情報を構成する。リンク表現をわかりやすくする | ウェブサイト提供者の配慮 |
5.英語やカタカナ表記のボタン名は不安 | 英語やカタカナ表記をメニューに用いるのを避ける | ウェブサイト提供者の配慮 |
6.メニューボタンの配置が不適切だとわかりにくい | ナビゲーションのレイアウトやデザインをわかりやすくする | ウェブサイト提供者の配慮 |
7.新たにウィンドウが開くものは戸惑う | リンク先を別ウィンドウに表示することを避ける | 高齢者向けサービスやツールの拡大/ウェブサイト提供者の配慮 |
8.SSLの警告の意味が理解できない | OSやブラウザからの音声ガイダンス等の支援機能を持たせる | 高齢者向けサービスやツールの拡大 |
高齢者向けポータルサービス(カテゴライズリンク集)の"sagevision"は、リンクを辿って別のサイトに入っても、常に同じ「戻る」ナビゲーションが表示されます。
全盲と弱視のウェブ利用者に、課題を決めていくつかのウェブサイトを利用し、評価してもらいました。
「サイトの理解」、「ページの理解」、「情報の理解」の順に、段階を経て情報の取得を行っています。また、段階毎に確認し、必要に応じて何度も立ち戻っています。
情報取得の手順を4段階にまとめると、以下のとおりです。3で情報が見つからなければ、2に戻ります。
読み上げ利用では、情報取得よりも、現在位置やページ構造の認識・判断に、格段に手間や時間がかかります。
読み上げ利用者では、ページ要素の重要性の順位づけが晴眼者と異なり、それが配慮されないと致命的な「使いにくさ」につながると言えます。
情報アクセスの確保だけでなく、音声での利用特性を踏まえたユーザビリティの視点からの配慮が非常に重要です。
弱視者では障害の状況により「見え方」や「見えやすい条件」に多様な個人差があり、ウェブの利用方法も様々です。弱視の視覚障害者の障害の例には、視力が弱い、視力が弱い、形がぼやける、ゆがむ、色の違いが分かりにくい、まぶしい、視野が狭い、真ん中が見えにくいなどがあります。
弱視の視覚障害者の主なウェブ利用方法は、次の4つに分類できます。このうち、本稿では1から3を対象とします。
利用方法 | 方法の具体的な内容 |
---|---|
1.パソコンやブラウザの設定による表示のカスタマイズ |
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2.画面拡大ソフトを利用する | 画面に表示される画像や文字を拡大表示するソフトを利用 |
3.拡大レンズを画面にあてて光学的に拡大 | 写真用拡大レンズや接眼レンズなどを直接ディスプレイにあて、画面を光学的に拡大 |
4.音声読み上げソフトを利用する | 障害の程度や表示される情報の種類によっては、音声読み上げソフトを利用するケースもある。 |
拡大箇所を決めるまでの、ページ構造と機能の把握が重要なプロセスとなります。情報取得の手順は、次の5段階にまとめられます。4で情報が取得できなかった場合は、2に戻ります。
「拡大表示」と「縮小表示」を繰り返しながら利用するのが、情報取得の基本パターンです。
利用特性に配慮した機能の配置(レイアウト)や情報量の設定等が求められます。
利用の手順 | 行為の種類 | 発生する問題 | 配慮のポイント |
---|---|---|---|
1.ページに合わせブラウザ等の設定を調整 | 事前の設定 | 文字サイズが固定されているとブラウザで拡大できない。 | 文字サイズに相対的な単位を使用する。 |
2.ページのおおまかな構造(情報構成・位置関係)や機能を把握する | 構造と機能の把握 | 画面の拡大・縮小を繰り返すと欲しい情報の位置を特定するのが難しくなる。 |
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3.テキストや画像内容を読みとり、リンクの選択など動作を行う | 情報内容の読みとりと利用 | 文字が画像で表現されていると、設定変更では拡大できない。 | 重要な情報は、画像ではなくテキストで提供する。画像には解説のテキストを用意する。 |
今回の調査で明らかになったことは、ユーザーや支援者の間では良く知られていたものの、ウェブ制作現場には届いていない情報です。
アクセシブルなウェブサイトを目指すなら、それぞれ独自の利用者(高齢者・障害者)試用調査を実施してほしいと思います。
発表内容の詳細について、総務省実証実験ホームページで公開中です。
みんなのウェブhttp://www2.nict.go.jp/v/v413/103/accessibility/(平成13年度実証実験の成果として公開しています)