2007年度の総務省の調査データ「字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送の割合」によると、NHK総合の番組は100%、民放在京キー5局平均は89%に字幕がついているという結果が出ています。生放送のニュース番組や、生中継のスポーツ番組は対象外でした。
しかし、2007年の総務省の指針では、生放送でも、複数人が同時に会話を行う場合、手話により音声を説明している場合、大部分が歌唱の音楽番組以外には、2017年までにすべて字幕が付与されることを目標として示しました。聞こえない人も、聞こえる人と同じようにテレビが楽しめるようになってきたのです。
ところが、民放放送の約20%を占めるテレビCMには字幕がついていません。テレビCMは最強の宣伝メディアでありながら、聞こえない人にはその製品の情報が伝わっていないのです。また、注目されているCMの内容がわからないので、みなさんの話題にもついていけません。
何故なのでしょうか?
私はIAUD(国際ユニヴァーサルデザイン協議会)で個人賛助会員として活動に参加しています。IAUDとは、ユニバーサルデザインの普及と実現を通して社会に貢献しようという趣旨で、2003年11月に設立された団体です。
現在、業種や業界を超えた日本を代表する企業をはじめ、教育機関や自治体、UD関連団体が160社・団体ほど集まっており、個人賛助会員も加わり、日本最大のUD推進団体といえるでしょう。
このIAUDの事業活動の中に、「余暇のUDプロジェクト」があり、「テレビCMの字幕」をテーマに、研究活動を行なってきました。
広告関連団体、企業、生活者へのアンケート調査を行なう中で、CMに字幕がついていない理由もわかってきました。まず、CM素材の搬入基準に「字幕放送に関しては、CMでは取り扱えません」という一文が掲げられていたのです。つまり、最初からCMに字幕という発想がなかったということですが、2008年4月にこの一文が削除されました。
しかし、CMに字幕をつけるには、放送システムの問題、変更に伴うさまざまな課題があります。番組には専用の字幕サーバーがありますが、現在CMには専用の字幕サーバーがないので、字幕をつけることができません。また、CM放送中にその前の番組の字幕がかぶさることがないように、字幕をカットする信号が出されています。これは、番組の字幕がCMにかぶさってしまうと、放送事故扱いになってしまうからです。CMに字幕をつけるとなると、他にもシステムの運用の見直し、キー局とローカル局のシステムの違い、字幕制作コストをどこが負担するかなどの問題もあります。
アメリカでは、テレビ番組、CMなど関係なく、文字の情報を全てに提供することを定めたADA法があります。広告団体が字幕の付与を勧めているので、スポンサーが費用を出し、メジャーな局の場合は2,3割のCMに字幕がついています。テレビ局が字幕付与を無償で提供することもあるそうです。
実際には、生活者の中には字幕がほしいという人はたくさんいます。IAUDが聴覚障害者と聴者330人に対して行った「生活者のCM字幕へのニーズ」というアンケートでは、聴覚障害者の75%が、CMにも字幕が欲しい。聞こえる人でも半分が字幕をほしいと考えているという結果が出ました。
私たちは、字幕ははじめから焼き付けるオープンキャプションではなく、見たい人が自分で選べるクローズドキャプションを推奨しています。字幕については現在のところ統一する規格がないので、番組によって字幕の表示位置や、色、大きさなどがそろっていません。画面の真ん中に表示されたり、もともとあるキャプションに字幕がかぶさって見えないこともよくありますので、規格の検討も必要です。
CMに字幕がつくというのは、誰もが同じ情報を共有することができるという、最低限あたりまえのことなのです。IAUDでは、さまざまな企業の協力の下、実際に放送されているCMに字幕をつけて、聞こえない人たちに見ていただきました。
「CMってこんなにたくさんの情報を流していたんだ!」
「字幕がつく、それだけで生活が潤う気がします」
「字幕があるだけで、購買意欲が高まる」
「字幕のつく企業への印象もよくなる」といった声をいただいています。
あたりまえの情報保障というだけでなく、企業のCSRとして、企業イメージの向上や、購買意欲にもつながるのです。
解決するにはまだ時間がかかりそうですが、自分にできることとして、メーカーで講演するときには、必ず提案させていただいています。数年後にはCMに字幕がつくといいなぁと思います。
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原本作成日: 2009年2月9日; 更新日: 2019年8月19日;