Reconstructions of cellular and cell-molecular sensing mechanism

Reconstruction of cellular and bio-molecular sensing mechanisms

Group leader:
Hiroto TANAKA, Senior Researcher
/ 田中裕人 主任研究員

チーム構成:
技術員1名、学生1名 (2018年10月現在)

細胞そのものを活用した化学物質センシング技術

人間の自然なコミュニケーションを成立させるためには、現在の情報通信技術の主な対象である視覚情報、聴覚情報に加えて、味覚、嗅覚など化学物質から得られる情報を的確に定量化・符号化し表現する技術が必要です。私たちは、身の周りに存在する化学物質から得られる情報をセンシング可能とする新しい技術の開発に取り組んでいます。

Fig1

図1.細胞そのものを用いた化学物質識別技術。

私たちは、環境に存在する様々な化学物質の影響を受けながら生活しています。日常的に最も身近に感じられる例は「味」や「におい」の認識にみられます。化学物質センシングの代表である「味」や「におい」の認識は、生き物にとって食物が食べられるかどうかの判断にとって重要な味覚や嗅覚を形成し、私たちが生命活動を維持するために重要な役割を果たしています。味やにおい以外にも、私たちの周囲には食品添加物や薬品など、生物活性をもった様々な化学物質が顕在しており、人間の生活にポジティブとネガティブ両側面から様々な影響を与えています。これら生物活性をもつ化学物質のもたらす影響を、生き物や人間の感覚に寄り添って評価する技術は、現在の情報通信技術の主たる対象である視覚情報や聴覚情報に加えて、センシング可能な領域を化学情報に拡大する観点から強く求められるところです。

Fig2

図2.バクテリアを用いた化学物質センサー。

生き物の感覚に則した化学情報をセンシングに求められるところは、人工機械であるガス漏れセンサーのように、ある決まった単一の化学物質の濃度を正確に測定することに秀でた化学物質センサーではなく、警察犬の鼻やワインソムリエの舌のように、様々な化学物質の混合物の持つ意味情報、例えば群衆の中の特定の人やおいしいワインの特徴を識別することにあるといえます。これらの例にみられるような、周囲の化学物質が生き物や人におよぼす影響を、可視化して定量的に評価する情報識別技術は未だ発展途上の状況です。その理由は、様々な化学物質の混合物がもたらす複合した情報が、人や生き物にどのような影響を与えているかを定量的に記述するためのものさしを作ることが大変困難であることに帰着します。一方で、これら化学物質を認識する優れた能力は、先の例でも挙げたように、人をはじめとした高等な動物はもちろんのこと、昆虫や線虫、さらには最も単純な生き物であるバクテリアに至るまで例外なく備わっています。この能力は、分子を媒体とした通信手段として、生き物が食物を求めたり、子孫を残すために異性を誘引したり、外敵と戦うために仲間を呼び寄せるといった、生存のための重要な場面で大きな役割を果たしています。私たちは、生き物のもつこれらの優れた能力を、化学物質のセンシング技術へと応用できないかと考え、生き物を機械のように取り扱うことを可能とするための生命科学の知見、それらの振る舞いを定量化してデータを収集するための計測技術、定量化したデータから意味のある情報を取り出すための情報解析技術を融合して、生き物のものさしで化学情報を識別する新しいコンセプトのセンシング技術を創造することに取り組んでいます。

現在、私たちは様々な化学物質に対するバクテリアの運動状態の変化を定量化し、これをデータベースとして用いることで身の回りの化学物質から得られる情報を識別する「バクテリアセンサ」の構築に取り組んでおり、その技術としての可能性を検証するとともに、バクテリアをはじめとした細胞がどのように環境の化学情報を感じて情報処理を行っているかについての科学的な考察を行っています。