プレスリリース・メディア
私たちの研究論文のうち、いくつかはプレスリリースがなされ、メディアに取り上げられてました。簡単な紹介は下記をご覧ください。
迷うことにも意味がある:決断の迷いも含めて脳は運動を学習することを発見
- Ogasa K, Yokoi A, Okazawa G, Nishigaki M, Hirashima M, Hagura N
Decision uncertainty as a context for motor memory. Nature Human Behaviour, 2024
プレスリリース
https://www.nict.go.jp/press/2024/06/13-1.html
サッカーのPK戦では、選手はゴールキーパーの左側への動きを見て確信を持って右隅にボールを蹴る場合もあれば、ゴールキーパーが動く方向に確信が持てないまま同じように右隅に蹴ることもあります。どちらも見かけ上は同じ運動であるため、この「右隅に蹴る」という動作について脳から同じ運動指令が出されていると考えがちです。これまでの意思決定理論においても、一度意思決定がなされてしまえば、その決定に対する確信度合には依存せずに同じ運動が実行されると考えられていました。しかし、私たちは、これまでの考え方を覆し、脳は決断を迷った末の運動と、迷わずに行う運動を区別し、異なる運動として学習し、実行していることを明らかにしました。
スポーツ場面では、いつでも同じパフォーマンスを発揮するために、「迷うな!」という指示が飛ぶことがあります。しかし、今回の研究結果では、脳は、むしろ迷いを受け入れ、迷いに応じた運動を作り出すことで、パフォーマンス低下を防いでいることが分かりました。つまり、現実場面で安定したパフォーマンスを発揮するためには、ただ単に目的の運動を達成するための練習に注力するのではなく、事前の意思決定状況とセットで運動を学習する必要があることが示唆され、新たなスポーツ等の指導方法につながります。
朝日新聞記事 ほか
https://www.asahi.com/articles/ASS6G4TBYS6GULBH00CM.htmlhttps://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1601443.html
https://nazology.net/archives/152313
https://medicalxpress.com/news/2024-07-brain-motor-memories-differently-based.html
高いところにあるブドウは実際に熟れていないように見える?:意思決定とその決定を実現する運動の大変さ
- Hagura N, Haggard P, Diedrichsen J.
Perceptual decisions are biased by the cost to act. eLife, pii: e18422. 2017
プレスリリース
https://www.nict.go.jp/press/2017/02/22-1.html
https://www.ucl.ac.uk/news/2017/feb/humans-are-hard-wired-follow-path-least-resistance
知覚的意思決定とは、「どのリンゴがもっとも赤いか?」といったような、感覚情報の特徴(i.e. リンゴの赤の要素)を利用して判断を下すことです。これまでの意思決定研究は、感覚特徴がどのように脳内で意思決定に変換されるかのメカニズムに主たる焦点を当ててきました。私たちの研究では、これまで注目されていなかった意思決定の事後にかかる運動の負荷(i.e. 選んだリンゴをとるための運動の大変さ)が、実は意思決定の考慮に入れられており、それが特徴に対する判断そのものに影響を与えてしまっている(i.e. とるのが大変なリンゴは赤く見えない)ことを示しました。
「知覚」意思決定は身体の動きから独立ではない、という証拠の一端を提出する理論的重要性から、そして、「運動したくない、という怠惰さに合わせて環境の知覚が変わる」、という観点で、様々なメディアに取り上げられました。
Trends in NeuroscienceのSpotlight論文
https://www.cell.com/trends/cognitive-sciences/fulltext/S1364-6613(17)30049-9Forbes
https://www.forbes.com/sites/carolinebeaton/2017/02/22/new-research-shows-that-were-wired-to-take-the-path-of-least-resistance/?sh=4267271366d3Neuroscience News
https://neurosciencenews.com/path-of-least-resistance-6139/運動を準備するとボールが止まって見える?:運動の準備による視覚情報処理の促進と時間知覚の延長
- Hagura N, Kanai R, Orgs G, Haggard P.
Ready steady slow: action preparation slows the subjective passage of time. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 279: 4399-4406. 2012
プレスリリース
https://www.ucl.ac.uk/news/2012/sep/ready-steady-slow-why-top-sportsmen-might-have-more-time-ball
「打撃の神様」と言われた読売ジャイアンツの川上哲治選手は、打つ前に「ボールが止まって見える」と言ったという逸話があります。テニスのマッケンロー選手も同様のことを言っているようです。これらの逸話にインスパイアされ、私たちは、手を動かそうと準備している「運動準備期間」には、準備していないときにくらべて、視覚情報処理が促進し、同時に時間がゆっくりと感じられることを明らかにしました。この結果は、入ってくる情報にだけ依存するはずの「見る」という行為も、その時その時に運動の状態によって変化することを表しています。
スポーツ選手の「球(時間)が止まって見える」という経験・逸話に対応する内容だとして、世界中のメディアに取り上げられました。
BBC
https://www.bbc.com/news/science-environment-19477623LeFigaro
https://sante.lefigaro.fr/actualite/2012/09/06/19002-comment-grands-sportifs-arrivent-ralentir-tempsNational Geographic
https://www.nationalgeographic.com/science/article/ready-steady-slow-time-slows-down-when-we-prepare-to-move山椒は小粒でもぴりりと辛い?:山椒が皮膚をビリビリさせる理由
- Cataldo A*, Hagura N*, Hyder Y, Haggard P.
Touch inhibits touch: sanshool-induced paradoxical tingling reveals perceptual interaction between somatosensory submodalities. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 288:20202914. 2021 - Kuroki S*, Hagura N*, Nishida S, Haggard P, Watanabe J. Sanshool on the fingertip interferes with vibration detection in a rapidly-adapting (RA) tactile channel. PloS One, 11: e0165842. 2016
- Hagura N*, Barber H, Haggard P. Food vibrations: Asian spice sets lips trembling. Proceedings of the Royal Society B; Biological Sciences. 280: 20131680. 2013.
プレスリリース
中華の四川料理によく使われる山椒は「辛い」という印象をお持ちの方も多いでしょう。しかし、山椒の主成分は辛味よりも「軽く触られた」という情報を検知する触覚のセンサーを活動させることが明らかになってきています。私たちは、一連の研究から、山椒を食べたときに感じるピリピリは、30-50Hzのバイブレータを皮膚に与えるのと同じであることを明らかにしました。さらに、山椒を利用して、異なる触覚センサー間の相互作用を見る手法も提案しました。山椒という身近なスパイスが触覚を引き起こすことに対する興味から、世界中のメディアに取り上げられました。