
[座談会]
女性研究者の活躍
NICTでは、年齢、性別、国籍などの違いによらず、個を尊重し、すべての人が活躍できる職場環境を実現しています。女性研究者たちも多く、それぞれが自分の研究テーマに打ち込み、活躍しています。そこで、NICTに入構した4名の女性研究者たちに、NICT を選んだ理由や現在の仕事内容、職場の雰囲気などをオープンに語っていただきました。

研究職
青木 画奈
- ネットワーク研究所
- フォトニックICT研究
センター - 主任研究員
- 光アクセス研究室
- 2018年入構

テニュアトラック
研究員
伴場 由美
- 電磁波研究所
- 電磁波伝搬研究
センター - 宇宙環境研究室 研究員
- 2023年入構

研究職
松田 美慧
- サイバーセキュリティ
研究所 - サイバーセキュリティ
研究室 - 研究員
- 2023年入構

研究職
西堤 優
- 未来ICT研究所
- 脳情報通信融合研究
センター - 主任研究員
- 2022年入構
※部署・役職はインタビュー当時のものとなります。
NICTを選んだ理由を聞かせてください。
- 〈松田〉
- NICTを就職先として考え始めたきっかけは、大学院生の時にリサーチアシスタントに採用されたことでした。インターネット上に流れる偽誤情報の対策について研究していた私は、その知識が生かせる企業を探していたのですが、なかなか希望する就職先を見つけることができませんでした。偽誤情報対策は公共性が高いものの、利益につながりづらいため、事業化している組織はとても少なかったのです。そんな時にリサーチアシスタントとしてNICTで働く機会を得て、研究職の方々に相談すると、ここでなら偽誤情報の研究ができるとアドバイスをいただき、応募しました。
- 〈伴場〉
- 私の場合、以前の職場ではポスドクで、任期の終了が見えた頃、研究者を辞めて民間企業に転職するか、それとも日海外も視野に入れて次の研究職ポストに応募するか悩んでいました。様々なキャリアパスをたどった先輩方から話を聞き方向性を模索する中、勧められたのがNICTへの転職です。テニュアトラック研究員として採用された場合でも、パーマネント研究職への転換が見込めると聞き、研究者として生きていくための最後の挑戦という気持ちで応募しました。あの時、応募を勧めてくださった先輩方には感謝しかありません。
- 〈西堤〉
- 私も大学院の先輩の紹介です。当時、私は夫の仕事の都合で海外に暮らしていて、さらにコロナ禍で帰国できずにいました。応募するかどうか迷っていたところ、同じく研究者である夫から背中を押されました。ただ、書類選考に通っても面接の時期が出産と重なってしまうため、採用の可能性があるなら、できる限り早めに面接をお願いしたいことを応募書類に書き添えました。これを聞き入れてもらえるなら、きっと女性にとって働きやすい職場に違いない、と思って。実際、書類選考から面接まで短期間でご対応してくださり、出産前に入構が決まりました。
- 〈青木〉
- 私の場合は、正直に言うときっかけは家族が一緒にいたいと思ったことなのです。以前、私と子どもは神戸に暮らし、研究職の夫は仙台に赴任という別居生活が続いていました。子どものためにも一緒に暮らしたいと思っていた頃、夫がNICTに入構することになりました。それがきっかけでNICTについて知っていくと、研究者が活動する環境として魅力であったことはもちろん、女性研究者が家庭を大切にしながら働ける環境としても魅力を感じて応募することにしました。

現在の仕事内容を教えてください。
- 〈松田〉
- 入構する前は偽誤情報が研究テーマでしたが、現在は違法有害情報などにも対象を広げ、そうした悪質なコンテンツの検出技術の研究開発に取り組んでいます。また、脳情報通信融合研究センター(CiNet)と連携しながら、偽誤情報を信じる、あるいは拡散するメカニズムの解明も進めています。そもそも私が偽誤情報に関心を持つようになったのは、大学生の時に被災地支援のボランティアに行き、そこで災害時での偽誤情報の怖さを痛感したからです。情報工学を専攻する身として解決策を講じたいと考えるようになり、サイバーセキュリティの分野に進みました。
- 〈青木〉
- 私が携わっているのは、次世代の通信技術に関する基礎研究です。Beyond 5G時代を見据えて高速大容量のネットワークを実現できるように、光と電波が相互作用するナノ真空トランジスタなどの光・電子デバイスの研究開発に従事しています。勤務中はクリーンスーツを着てクリーンルームの中に入り、電子顕微鏡を使って数百ナノメートルから数ミクロンという微細なサイズのデバイスを作製しています。もともとモノを作るのが大好きで、子どもの頃はプラモデルを買ってもらっていたほど。今の仕事はその延長線上にあるといえるかもしれません。
- 〈伴場〉
- 子どもの頃からという点では私も同じです。宇宙に興味を持ち、天文学を志しました。私がハマッたのは太陽です。一番近い恒星なのに、分かっていないことが多い。例えば、太陽の表面ではフレアと呼ばれる爆発が起こるのですが、なぜ起こるのか。その発生メカニズムを研究しています。これが分かれば、宇宙環境の変動が予測できます。宇宙環境は太陽の活動によって変動するので、もし太陽の表面で大爆発が起きれば、通信を担保する人工衛星に障害を与え、社会生活にも大きな影響を及ぼしかねません。そこでNICTでは法定業務として宇宙天気予報を行なっており、その業務を私たちの研究室が担っています。
- 〈西堤〉
- 私はみなさんのような自然科学の研究者ではなく、おそらくNICTで初めて採用された人文系の研究者で、専門は哲学です。 CiNetでは、脳神経科学の成果を社会実装する際に生じる倫理的・法的・社会的課題、通称ELSI※について、特に哲学的・倫理学的観点から考察しています。新しい技術が倫理的に許容されるか、法的に問題ないか、社会に受け入れられるか。想定可能な課題を洗い出し、それへの対処方法を関連する様々な分野の研究者とともに検討します。昨今のヨーロッパでは研究開発をする上でELSIは大前提であり、日本でもELSIへの取り組みが推進されています。私が関わっているのは、脳神経科学とAIが交差する領域における倫理的課題や、脳神経科学を利用した偽誤情報対策、VR技術に関わる哲学的・倫理学的問題などです。
※倫理的・法的・社会的課題(Ethical,Legal and Social Issues)の頭文字をとった略称。

研究の場として、NICTの魅力とは?
- 〈青木〉
- なんといっても、研究者を支援する制度が多種用意されていることですね。例えば研究開発推進ファンドには、萌芽期の研究を支援する「TRIAL」もあれば、芽が出て伸びつつある研究を支援する「NEXT」もあり、自由に選ぶことができます。ほかにも、海外の大学や研究機関で研鑽できる国際人材派遣制度もあるので、若い研究者にとってはステップアップを支援してくれる環境だと思います。
- 〈松田〉
- 同感です。私も国際人材派遣制度を活用して、来年1年間、海外の研究所で学びたいと考えています。私の場合、他での就業経験がないので比較はできませんが、NICTは研究の自由度が非常に高く、チャレンジを歓迎してくれる環境だと思います。実際、入構した初年度から海外でのワークショップなどの研究発表の機会が豊富に存在し、世界基準で研究をパワーアップさせられます。また自分の発案で新しいプロジェクトを起案し、現在、そのプロジェクトでは専門の異なる方々とチームで研究を進めているので、とても刺激的です。
- 〈西堤〉
- 松田さんの提案されたプロジェクトでは、私もELSIの検討で関わっています。こんなふうに自然科学と人文社会科学が一丸となって大きな仕事に取り組めるところに私は魅力を感じています。常に学び続けなければならないので大変ですが(苦笑)。AI研究をはじめ、様々な分野で融合研究が進められている今、境界領域における研究のELSIは非常に重要であり、そこに携われることにやりがいと楽しさを感じています。
- 〈伴場〉
- 私の場合、これまでは学術的興味を追求する研究スタイルでしたが、NICTに転職してからは研究成果を社会へ還元することを見据えた研究スタイルに変わりました。そのきっかけとなったのが宇宙天気予報業務です。私たちの部署では、研究者はみな毎日14時半からの予報会議に参加して、その日の予報を決め、配信するという業務があります。それを通じて、自分の研究と社会とのつながりを実感でき、以前よりも研究に対してやりがいを感じるようになりました。
- 〈青木〉
- 国立の研究機関であるNICTは研究だけに取り組むのではなく、法定業務があるのが特徴的ですよね。日本標準時を提供し、管理しているのもその一つ。このほか、NICT本部ならではの魅力を挙げるなら、アクセスのよい中央線沿いに位置していることですね。首都圏の大学や企業と連携しやすい地理的有利性があると思います。

職場環境についてはいかがですか。
- 〈伴場〉
- 入構前は堅いイメージがあったのですが、意外と柔軟な組織だと感じています。初出勤の日、子どもの預け先がなかったため、子連れでの出勤となりましたが、研究室のみなさんに受け入れていただきました。現在は都外に暮らし、在宅勤務をベースに週に1回程度、新幹線通勤をしています。このような勤務形態を認めていただいていることや、服装や髪型、ネイルなども自由にできることに、個を尊重する組織風土を実感しています。
- 〈西堤〉
- 私もワンオペで子育てすることも多いので、働く時間が自分で決められる裁量労働制やフレックスタイム制が導入されているので助かっています。女性というと、結婚や出産、子育てといったライフイベントに注目されがちですが、親の介護や自分自身の病気、子どもの世話などは女性に限ったことではありません。その人にとってケアしなくてはならないことがあった時にそれに合わせて柔軟な働き方を選択できるというのは大きな強みだと思います。
- 〈青木〉
- そういえば、コロナ禍が始まった頃、リモートワーク環境をすぐに整備したのはすばらしかったですね。もともとハード的にもソフト的にも整備されていたからこそ実現できたわけで、本領発揮と感じました(笑)。コロナ禍が収まっても、以前の状態に戻すことなく、働き方の自由度を保持してくれているのはありがたいです。
- 〈松田〉
- 確かに、研究者の働き方はそれぞれ異なりますね。研究室によっては、研究と法定業務の割合も自分で決めることができますし、論文に対する考え方も研究室によって違うようです。
- 〈伴場〉
- 私自身はリモートで働くことで不都合を感じることはありません。研究上や業務上で相談したいことがあれば、チャットなどで研究室のみなさんとすぐにコミュニケーションがとれますから。それに、論文を書いている時などは誰にも邪魔されず自分の世界に入りたいので、リモートワークが適しています。

今後の目標を聞かせてください。
- 〈松田〉
- サイバーセキュリティへの重要性が高まる今、悪質なコンテンツを検出する新たな仕組みを作りたいと考えています。そして、それを社会実装できるようにするのが今後5年間の目標です。既にマイクロターゲティングが可能となっており、今後は一人ひとりに焦点を合わせたサイバー攻撃が行われる時代になるでしょう。いかにユーザーを守っていくか。それには、その人の思考回路や行動パターンに合わせたセキュリティフィルターを作っていくことがカギとなると考えています。
- 〈伴場〉
- せっかくNICTに入構したので、AIやサイバーセキュリティ、Beyond 5Gなど他の分野についても明るくなりたいですね。機構内での交流イベントに参加して、いろんな人に話を聞きながら学んでいけたらと思っています。自分の専門分野に関しては、宇宙天気予報の信用度を高めること。いずれ宇宙に行くのが当たり前の時代になったら、テレビの天気予報と同じくらい宇宙天気予報も信頼されてほしい。そのためにも精度を上げていきたいと考えています。
- 〈西堤〉
- 長期的な目標としては、NICT内で身近にいる人文社会科学系の研究者が私一人だけなので、もっと仲間を増やしたいですね。私は大学院時代から伝統的な哲学的視点に加えて、心理学や認知科学、脳神経倫理学を取り入れながら様々な課題を論じてきました。しかし、ELSIを検討する上では社会学と法学に関して分からないことが多いので、外部機関とも連携を取りつつ、チームで検討する仕組みを作りたいと考えています。
- 〈青木〉
- 通信技術の進展に終わりはなく、目の前の課題を一つひとつ解決していくことでまた新たな目標が生まれてくると思っています。実験は思い通りの結果にならないこともあるし、論文の評価も期待通りにいかないこともある。だから、そうしたことに一喜一憂せず、自分の目の前にある課題に対して真摯に取り組んでいきたいと考えています。

NICTを目指す女性研a究者の方へメッセージをお願いします。
- 〈伴場〉
- 私自身の経験から言うと、就職活動をする際にはいろんな人の話を聞いてみることをお勧めします。固定観念にとらわれず、自分の世界に閉じこもらず、幅広い視野で見てみると、意外なところからご縁がつながることがあります。NICTも含めて選択肢を広げて検討する中で、最終的にNICTを選んでもらえたらうれしいですね。
- 〈西堤〉
- NICTでは分野が異なる研究者同士でも自由に議論を行うことができ、とてもよい雰囲気だと感じています。上司の方にも意見を述べやすく、気兼ねなく相談もできます。働く環境も整っているので、興味を持たれた方には応募してもらいたいですね。
- 〈松田〉
- 私のように若手研究者の場合、自分の実力や経験を実績で示すものが少ないので応募を躊躇する人もいると思います。でも、「この研究をやりたい!」という熱い思いが大事であり、それにきちんと応えてくれるのがNICTです。メンター制度も導入されたので、新人の方でも働きやすく、自分の研究スタイルを確立しやすくなったと思います。
- 〈青木〉
- 「情報通信研究機構」という名称から、研究テーマが狭い分野に限られていると思われがちですが、実はそうではありません。脳の活動や宇宙の天気など幅広い分野をカバーしています。自分の研究対象が「情報」や「通信」というキーワードと関連付けられそうなら、ぜひNICTの門戸を叩いてほしいです。富士山が日本一高い山であるのは、広い裾野に支えられているからであって、研究もそれと同じ。一つの組織にいろんな人がいると、セレンディピティがたくさん発生して、思いがけない研究が始まり、それが私たちの生活を刷新する技術の一つになるのだと思います。ぜひチャレンジしてみてください。



