ICTで、未来をどうする?
リアルの、その先の未来世界を目指す

光技術を用いたテラヘルツ無線通信デバイスの開発で、光ネットワークとシームレスに接続された無線通信システムが実現すると、サイバーとフィジカルの融合はよりリアルな感覚として新しい現実を形づくる。例えば、その場の空間の震えや空気感が音を伴って伝わる生演奏の臨場感のように、アナログ世界で感じる密度の濃い空間体験をそのまま再現、感じ取れる。そんなリアルのその先の未来世界を目指す。

研究職
梶 貴博
[プロフィール]
2009年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了、同年4月より、グローバルCOE(物質の量子機能解明と未来型機能材料創出)特任助教(大阪大学)、2009年12月より、有期研究員としてNICT入構。研究員を経て、2023年4月より、研究マネージャーとして現在に至る。
※部署・役職はインタビュー当時のものとなります。

光技術を用いたテラヘルツ無線通信デバイスの開発で、光ネットワークとシームレスに接続された無線通信システムが実現すると、サイバーとフィジカルの融合はよりリアルな感覚として新しい現実を形づくる。例えば、その場の空間の震えや空気感が音を伴って伝わる生演奏の臨場感のように、アナログ世界で感じる密度の濃い空間体験をそのまま再現、感じ取れる。そんなリアルのその先の未来世界を目指す。

大学院時代は物理化学の研究室で、フェムト秒(1,000兆分の1秒)という短いスケールでレーザーを照射し、化学反応がどう起こるか、そのメカニズムを見る基礎研究を行っていました。大学への就職も考えましたが、NICT神戸で博士課程での研究内容を生かせる公募を見つけ、ポスドク研究員(有期研究員)として入構しました。
現在、研究室では、Beyond 5Gにおける超高速・大容量の無線通信の実現に向け、光技術によるテラヘルツ帯の無線通信デバイスの研究開発を手掛けています。5Gの先という意味で使われるBeyond 5Gは、単に通信速度が速くなるだけでなく、私たちの暮らしや社会活動を支える超低消費電力、低遅延、高信頼性の情報通信基盤として、今後のAI社会に欠かせない次世代デジタルインフラとなるものです。Beyond 5Gでは、テラヘルツ帯(100GHz~10THz)の高周波電磁波を利用した無線通信が見込まれています。テラヘルツ波とは、電波と目に見える光の中間に位置する周波数の電磁波のこと。これを用いた超高速無線通信デバイスを開発し、光ネットワークとシームレスに接続された超高速大容量・低消費電力・低遅延無線通信システムの実現を目指しています。

次世代通信技術として期待されているテラヘルツ波を用いた無線通信の実現には、光ファイバーを使って無線信号波形を光信号として伝送する光ファイバー無線との組み合わせが注目されています。スマートフォンなどの機器をインターネットに接続する場合、機器から発せられた無線信号を光ファイバーを用いて伝送することになり、その無線信号を光信号に変える素子が必ず必要になります。こうした信号を変換する小型で高性能、低消費電力なデバイスとして超高速の光変調器が求められており、私たちは、「有機電気光学ポリマー」という先端有機材料を用いたデバイスの開発を進めています。有機材料を使うことで超高速の無線信号から光信号へ直接変換するデバイスが実現でき、現在、研究では150GHz以上の高周波電磁波を使った直接光変調や無線伝送の実証にも成功しています。いろいろな電子回路を使うと発熱や遅延、消費電力の問題が生じますが、テラヘルツ信号をダイレクトに光信号に変換すると、そうした問題を生ずることなく、シームレスにつなぐことが可能です。
低消費電力で超高速の光変調を可能にする
有機材料「有機電気光学ポリマー」を
用いたプロセス技術の開発。
光通信では、光変調技術が情報伝達の速度を決定づける要の技術であり、低消費電力で100GHz以上の超高速の光変調を可能にする材料として「有機電気光学ポリマー」が注目されています。ラボのクリーンルームでは、この材料を用いたプロセス技術の開発を行っており、日本で有機電気光学ポリマー自体の開発からプロセス技術やデバイス開発までを一貫して手掛けているのは、NICT のグループ以外ほとんどありません。


数百GHz 以上のテラヘルツ信号から直接光信号に変えるのはなかなか難しいのですが、私たちは、現在、375GHz という非常に高い周波数での直接光変調の動作を実証しており、テラヘルツ波でダイレクトに光の信号に変えた事例としては、世界最高レベルの記録だと思います。このような、変換を実現できたのは、超高速な動作を可能とする有機電気光学ポリマーの材料開発とそれらを用いたデバイス開発の両面からのアプローチが功を奏したためと考えています。現在、企業と協働でモジュール化や製品化に向けた取り組みを進めていく段階に入っています。
デバイスと材料の両面から研究開発を進めることで、小型かつ高性能なテラヘルツデバイスを実現し、テラヘルツ波のセンシング利用や無線通信への利用を加速度的に進め、これまでにない安心・安全かつ快適なICT社会の実現を目指していきたいと思います。


※写真はイメージです
[もうひとつの顔]
尺八歴20年。
ある日突然、祖父から高価な尺八が送られてきて、それがきっかけで始めました。祖父は師範でしたが、吹いているところを見たことはなく、教わったこともありません。20代から始めて、20年くらい続けています。今は上田流の師匠に教わりながら、上田流本曲「木枯」の練習中です。尺八の流派には、大きく「都山流(とざんりゅう)」と「琴古流(きんこりゅう)」があり、上田流は第三の流派ともいわれ、独自の音楽性と奏法があります。尺八は、五つの穴といろいろな技法ですべての音を出します。師匠の演奏を聞くと、太く芯のある音が響き、思わず「おっー!」と声が上がるほど、音の響きを全身に感じます。
