ICTで、未来をどうする?
正確な1秒を実現し、日本発の「時」を世界のインフラへ

「時刻」という社会生活や産業に多大な影響を与えるインフラの基準を定める研究で社会貢献を果たしたい。同時に産業界に対して研究成果を提供することで、超高精度時計を活用した新たな産業分野を創出することにも貢献したい。

研究職
木原 亜美
[プロフィール]
2014年学習院大学理学部物理学科卒業。2016年学習院大学大学院自然科学研究科物理学専攻博士前期課程修了、2019年学習院大学大学院自然科学研究科物理学専攻博士後期課程修了(理学博士)。2019年~2021年大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻電子光科学領域特任助教。2021年に有期研究員として入構。2025年度にパーマネント採用で主任研究員となる。
※部署・役職はインタビュー当時のものとなります。

「時刻」という社会生活や産業に多大な影響を与えるインフラの基準を定める研究で社会貢献を果たしたい。同時に産業界に対して研究成果を提供することで、超高精度時計を活用した新たな産業分野を創出することにも貢献したい。

NICTとの出合いは、大学3年生の時に量子暗号の研究セミナーに参加したことがきっかけでした。その後も何度かNICTを訪れる機会があり、大学とは違う充実した実験室や装置に圧倒されたことを今でも覚えています。その後、博士課程を修了し、大阪大学で特任助教として働き始め、イオントラップを使ったジャイロスコープの開発プロジェクトに参加。GPSに頼らずに自らの位置情報を推定できるジャイロスコープを開発することで、海底の資源探査など電波が届かない海中などでの活動を支援するといった目的で取り組んでいました。その後、時空標準研究室のイオントラップ光時計の研究開発の公募を見つけ、大阪大学でイオントラップを研究していたことから興味を持ち、応募して有期研究員として働き始めました。2025年からはパーマネント採用で主任研究員になり、長期的な視点や世界の研究動向の把握、また国の研究機関に求められる役割として産業への展開などを以前よりも意識して研究に取り組んでいます。

私が研究開発しているイオントラップ光時計はインジウムイオンを使った研究で、現在の1秒の基準であるセシウム原子を利用した原子時計よりも精度が高く1秒を測定できる方法として世界の研究者から注目を集めています。実は時間の計測の精度を上げることは長さの精度の向上にもつながります。速度が不変である光が1秒間で進む距離は約30万kmですが、この1秒が正確でないと距離もずれます。時間の精度が高いほど厳密な距離、つまり長さを測定することにもつながるのです。イオントラップ光時計はセシウム原子時計よりも3ケタも正確に1秒の長さを測定できます。例えば、3ケタも精度が違えばGPSだと10mの精度で測定していたものが10㎝の精度まで正確な位置を割り出すことができるようになります。また、グローバルに展開されている金融の株取引などは、わずかな時間の差が取引に大きな影響を与えますが、時間がより正確になることでより公正さを保つことにもつながります。つまり、正確な時刻を刻める時計を開発することは、社会活動のあらゆる局面に影響を与えるインフラになるので、強い使命感を持ちながらイオントラップ光時計の開発に取り組んでいます。
前任者の研究を引き継ぎ、日本の標準時に寄与できる光時計を目指す。
NICTでは以前からインジウムイオンを使ったイオントラップ光時計の開発を行ってきました。前任者が開発したインジウムイオン光時計の1号機で、1秒の基準となる光周波数を16ケタまで計測することに成功し、論文発表すると共に世界の度量衡を司る国際度量衡委員会に報告するという実績を作りました。ただ、インジウムイオン光時計は原理的に19ケタまで計測できるとされており、私がプロジェクトを引き継いで2号機の開発に挑戦中です。まずは未知の領域である17ケタ以降の測定の成功、そして日本の標準時への組み込み、国際機関への報告を目指して開発中です。


現在の日本の標準時はNICTが所有する複数の原子時計からの信号を合成して生成され ています。私が研究しているイオントラップ光時計の開発が進めば、従来の原子時計よりも精度の高いイオントラップ光時計が日本標準時信号を生成する信号の一つとして利用できるようになり、日本標準時の精度や安定性を格段に向上させることができると期待できます。同時に新しい1秒の基準としてデータを国際的な単位を扱う専門機関に報告することで、日本だけでなく世界の1秒の基準に寄与することにもつながります。そんな壮大な研究テーマに取り組めるのも、国の研究機関であるNICTならではの醍醐味だと思います。また、将来的にはインジウムイオン光時計を小型化し、これまでにない精度と安定性の時間を様々な分野で手軽に利用できるようにすることで新たな産業分野を創出したいと考えています。研究する環境としてもNICTは非常に風通しがよく、研究者同士の交流も活発なのでいい刺激を受けられます。まだまだ日本では女性研究者の割合は少ないと思うので、若い人たちが自分の興味ある分野で研究できるようにするためにも、女性研究者として前進していきたいと感じています。


※写真はイメージです
[もうひとつの顔]
思い通りにならない子育てにこそ、
研究のヒントが詰まっている。
2歳の娘がいるので、休日は家族で出かけることが多いです。実は子どもが生まれて、子育てが研究のヒントになることを実感しています。例えば、以前は夜泣きに悩まされていましたが、昼間の食べものや日中の睡眠時間の管理、室温や湿度などを何パターンも調整して夜泣きを減らすことに成功。研究の際のアプローチの仕方に大いに役立ちました。
