NICT 研究職 逵本 吉朗
NICTの人 ICTで、未来をどうする?

研究職

逵本 吉朗

  • 未来ICT研究所
  • 小金井フロンティア研究センター
  • 量子ICT研究室 主任研究員
  • 2017年入構

[プロフィール]

大阪大学基礎工学部電子物理科学科を卒業後、2012年、同大学院基礎工学研究科物質創成専攻入学。2014年、博士前期課程終了後、同博士後期課程に進み、2016年、独立行政法人日本学術振興会特別研究員(DC2)を経て、2017年4月、NICT入構。2020年4月、量子ICT研究室テニュアトラック研究員、2024年4月より同研究室主任研究員として現在に至る。2014年、大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻得居奨励賞受賞。

※部署・役職はインタビュー当時のものとなります。

ICTで、未来をどうする?

量子インターネットの実現で、
情報処理技術を革新する

NICT 研究職 逵本 吉朗

量子情報処理は、物理法則が許す究極の情報処理であると考えられている。量子状態は壊れやすいという課題はあるが、これを精密に制御する量子技術が急速に進展していけば、社会に役立つアプリケーションが生まれる可能性が高まる。量子インターネットが実現すれば量子情報を自由に送受信できるようになり、それを量子コンピュータの入力に用いたり、量子鍵配送で通信路の安全性を保ったりと、情報処理技術は劇的に変化する。

NICT 研究職 逵本 吉朗

研究で培った専門性を生かす道を選び、NICTへ。

大学で所属していた研究室が共同研究を行っていたこともあり、NICTのことは学生の頃から知っていました。大学院の博士課程3年の時に参加した国際会議で、当時の量子ICT研究室の室長から「量子もつれ光子対と超伝導単一光子検出器を使った実験ができる人材を探している」という話を聞きました。その時点で、民間企業から内定をもらっていたのですが、これまで研究で培ってきた専門性を生かせる道の方が楽しいだろうと思い、企業の内定を辞退して、NICTの有期研究員として入構しました。
私が今、取り組んでいるのは、「量子もつれ」という物理現象を利用したネットワークの研究です。量子もつれとは、離れている二つ以上の量子が強く結びつき、相互に関連し合う物理現象のことで、2022年のノーベル物理学賞で受賞対象となったのも量子もつれの研究です。量子もつれは、いわば万能のリソースで、この現象をつくり出せば、通信路として働いたり、計算リソースになったり、様々なことに利用できます。

NICT 研究職 逵本 吉朗

量子もつれを用いたネットワークの実現を目指す。

「量子力学」は、原子や電子、光子(光の最小単位)などの目に見えないミクロの世界の微小な粒子の性質、物理法則を扱う学問ですが、ここ10数年、情報理論に量子力学を組み合わせる動きが急速に広まっています。私が専門とする「量子情報科学」では、量子力学の原理を利用して、これまでの情報処理では不可能だった計算や通信を実現する革新的な情報処理技術として「量子情報処理」が期待されています。先述の量子もつれを遠隔地間で共有すると、量子通信路として作用します。つまり、意図的に量子もつれをいろいろなところに分配すれば、量子情報を相互に送受信できるネットワークが可能になります。量子コンピューターや量子メモリ、光時計などの量子デバイスを接続した「量子インターネット」が実現すると、自由に量子情報を送受信できるようになり、物理的に盗聴ができない量子鍵配送の長距離化や、量子センサーネットワーク、分散量子コンピューティングなどが可能になると考えられています。
研究では、理論も実験も自分で取り組みます。アイデアを考えて研究計画を立て、実験をどう組み立てるか検討し、必要なものを調達し、実験系を構築して実験を行います。データ取得後、理論モデルを構築し、シミュレーションを行って結果を比較し、データをまとめ、学会発表や国際的な論文雑誌用の原稿を書く。この一連のプロセスをすべて自分で行います。もちろん、研究や実験では数学やプログラミング等、様々な能力が求められるので、他の研究者に助けを求めることもあります。誰もやっていないことを実験で確かめられるのはやりがいがあるし、学会や論文の発表結果に反響があれば、モチベーションにもつながります。

プロジェクトと私

光子検出器を使った実験結果を
白板上で定式化し、検証する。

光の最小単位を「光子」といい、最も透過率の高い波長の光子を光ファイバーに通し、超伝導単一光子検出器を使ってカウントする実験を行っています。超伝導という電気抵抗ゼロの状態に光子が当たると、そのエネルギーで超伝導が壊れ、電気抵抗が生じるため、光子が届いたことを感知します。研究室と別の建物を光ファイバーでつなぎ、実際に量子もつれを配る実験も行っていますが、このような実験プロセスは、式で表すことができます。物理では、原子などが集まると相互作用が起きて複雑化し、厳密な定式化は難しくなりますが、光子が数個のレベルであれば、定式化して検証可能です。実験結果は、白板上に式で表し、計算して検証します。

プロジェクトと私
NICT 研究職 逵本 吉朗

物理法則の限界点に向かって可能性を
探究。

物理は突き詰めていくと、疑いようのない真理にたどり着きます。なぜ重力があるのかというと、世界がそうなっているからで、答えはない。物理は、世界の在りようを見つめていった先に成り立つものであり、例えば、電気と磁石に働く法則であれば、マクスウェル方程式という電磁気学の基礎を成す四つの方程式しかありません。その四つの式は疑いようがない真理として存在し、全ての法則が、すべてそこから演繹的に導かれています。私の趣味の一つは仏像鑑賞ですが、仏教では真理という経典があって、人の心の起こりや世界の成り立ちはそうあるものだから、その真理を認めるしかない。この点において、仏教は物理とよく似ています。量子力学は、人間の扱える理論の限界といわれており、自分がこの分野に興味を持つのは、人間に許される限界の物理法則を使って、何ができるのかを探求することは決して無駄ではないと考えるからです。無限ではない限界点、つまり物理法則の到達点は見えていて、その限界点に向かって、人間の可能性を探究していく。考えるだけで、ワクワクします。量子ネットワークが形になるまでに、やらなければならないことは山ほどあります。でも、それをクリアし、量子もつれのネットワークが実現できた暁には、輝かしい未来が待っていてほしい、そう願いながら、日々研究に取り組んでいます。

NICT 研究職 逵本 吉朗
NICT 研究職 逵本 吉朗

※写真はイメージです

[もうひとつの顔]

構内を散策し、
四季の移ろいを愛でてリフレッシュ。

NICTの本部構内は緑が多く、四季を通じて珍しい動植物が生息しており、散策するとリフレッシュできます。GW前の季節には、高尾山などに自生する珍しい植物「金蘭」を見かけます。黄色い花が咲く蘭の仲間ですが、土壌の菌類と共生しているため、土が変わって菌類のバランスが崩れると枯れてしまいます。秋には、山芋の葉の付け根にできる球状の芽・ムカゴを見かけるので、持ち帰ってムカゴご飯にして食べています。

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