1秒の定義

かつての1秒の長さの定義は、天文学的な定義に基づいていました。 1956年以前、地球の自転を基にして1秒は平均太陽日の86400分の1とされていました。
しかし、地球の自転速度は潮汐摩擦などの影響によって一定ではないことが判明し、自転速度よりも変動が少ない 地球の公転を基にした暦表時(ET)が1956年のCGPMで採用されました。
その内容は以下の様なものです。

「秒は、暦表時の1900年1月0日12時に対する太陽年の
1/31 556 925.9747倍である」


そして、1960年の第11回国際度量衡総会で批准されましたがこの定義は長くは使われませんでした。 その後、原子時計の開発により、地球の自転や公転に基づいた定義よりも正確な量子力学的な定義に改定されました。 その定義は1967年のCGPMで、

「セシウム133 原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移に対応する放射の 9 192 631 770

周期の継続時間」と定められ、現在もこの定義が用いられています。

厳密な定義と一次周波数標準器

厳密な秒の定義は、止まっている原子、絶対零度、外部電磁場なしなどの条件が課されていますが、実際にはこれらの 条件を満たすことは不可能です。通常の原子時計は多少のずれの補正は他に頼り、安定した連続運用を目指すのに対し、 条件の違いを測定し、周波数の変化を評価、補正して他に頼らず自分自身で絶対的な秒の定義を実現するのが一次周波数標準器です。


セシウム133原子
セシウム133原子の原子核は55個の陽子と78個の中性子、合計133個の核子からなります。
ここではできるだけ直感的な理解ができるよう話を進めます。

セシウム133原子のシンプルなイメージとしては、中心部と最も外側の電子の二つの要素からなると思ってもらえると十分です。
中心部は原子核と内側の電子の集合体で、この中心部と外側電子どちらも小さな磁石の性質を持っています。 外側電子はある種の軌道に沿って中心部の周りを巡っていると思ってください。
このような原子にちょうどよい周波数の電波をあてると原子の状態が変わります。 図に示されているように、安定な軌道から最寄りの不安定な(励起された)軌道へ移すには約350THz(波長852 nm)の赤外光が必要で、 中心と外側電子の磁石の向きを安定から不安定へ変えるには約9GHz(波長3.3 cm)のマイクロ波が必要です。
この、磁石の向きを変えるのに必要な電波の周波数が、秒を定義するのに使われています。