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技術試験衛星9号機(ETS-9)プロジェクト

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技術試験衛星9号機(ETS-9)プロジェクト

実証に向けた取り組み

近年、航空機、船舶、離島、災害地といった地上通信ネットワークが利用できない場所におけるブロードバンド通信の需要が高まっています。また、身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といった新しいユースケースが本格的に普及し始めています。

このようなニーズに応えるため、衛星通信の需要がさらに高まっており、諸外国で研究開発が進められています。静止衛星をマルチビーム化したハイスループット衛星(High Throughput Satellite: HTS)と呼ばれる衛星や、低軌道(Low Earth Orbit: LEO)の小型衛星群による“メガコンステレーション”を利用したブロードバンド通信サービス計画により、衛星通信の大容量化と低コスト化が進んでいます。

さらに、通信に必要不可欠な電波の周波数資源が逼迫していることから、従来よりも周波数利用効率の高いシステムや、電波に依存しない大容量通信の実現が求められています。

このような背景から、通信・放送衛星に関する国際競争力の強化と最先端の技術の獲得・保有を目指し、技術試験衛星9号機(ETS-9)の計画が2016年から始まりました。開発・実証する技術である次世代衛星バス技術、次世代衛星通信技術のうち、総務省及びNICT、関係機関は「次世代衛星通信技術」を担当し、技術目標として

  • Ka帯マルチビーム給電部、光フィーダリンクによる大容量化
    • Ka帯の活用によりビット単価低減を目指した100ビーム級・100Gbps級のマルチビーム通信技術
    • フィーダリンクの大容量化を目的とした10Gbpsの光空間通信技術
  • Ka帯広帯域デジタルチャネライザ・デジタルビームフォーマ(DBF)によるフレキシブル化
    • 衛星寿命の長期化にともなう、通信容量、利用地域、サービス等の変化に柔軟かつ機動的に対応するためのフレキシブルペイロード技術
  • 通信システムの統合的な運用制御による高効率化

の3項目を掲げて研究開発を進めており、2025年度打上げ予定の技術試験衛星9号機(ETS-9)を用いて実証実験を行うことにより、世界市場において競争力のある、世界最先端の通信ミッション技術の獲得を目指しています。

技術試験衛星9号機(ETS-9)イメージ図
技術試験衛星9号機(ETS-9)の通信システム

技術試験衛星9号機(ETS-9)の通信システムは衛星に搭載される通信ミッション(4つの通信サブシステム)と地上セグメントで構成されています。

■ 通信ミッションの概要

1.固定ビーム通信サブシステム

  • 次世代HTSに向けたKa 帯チャネライザ・マルチビーム給電部及びフィーダリンク技術。伝送速度最大100Mbpsを目標とし、ビームあたりの周波数帯域を柔軟に変更可能な周波数フレキシビリティを実現する広帯域チャネライザ技術、100ビーム級のマルチビーム化に向けた周波数繰り返し利用の実証を行う小型高密度なマルチビーム給電部技術の確立を目指します。
    (総務省委託研究「ニーズに合わせて通信容量や利用地域を柔軟に変更可能なハイスループット衛星通信システム技術の研究開発(平成28年度-31年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、国立大学法人東北大学、三菱電機株式会社)」にて三菱電機株式会社が開発)

2.可変ビーム通信サブシステム

  • 次世代HTSに向けたKa帯デジタルビームフォーミング(DBF)技術。カバーエリア全体で各ビームの場所や形状を自由に変更可能で、伝送速度最大100Mbpsを目標とするエリアフレキシビリティ技術の確立を目指します。
    (総務省委託研究「Ka帯広帯域デジタルビームフォーミング機能による周波数利用高効率化技術の研究開発(平成29年度-31年度、三菱電機株式会社)」にて三菱電機株式会社が開発)

3.光フィーダリンク通信サブシステム

  • 世界最高レベルの10Gbps級の静止衛星-地上間光データ伝送を可能とする超高速光空間通信システムを研究開発し、光フィーダリンクの基礎技術の確立を目指します。
    ETS-9に搭載する光通信機器HICALI (High Speed Communication with Advanced Laser Instrument) では、地上の光通信ネットワーク用に開発された高速デバイスを宇宙空間で使うためのスクリーニングプロセスの確立を目指しています。光空間通信実験では、軌道上における光通信デバイスの動作確認、伝送速度10 Gbps の高速光通信機能の確認、レーザ光の伝搬データの取得、気象条件に応じたサイトダイバーシティ実験、補償光学を含む光通信地上局における新技術の検証を計画しています。

4.共通部通信サブシステム

  • Ka 帯通信、光空間通信の実証実験に必要な機能として、地球局の捕捉追尾やKa 帯伝搬データ取得のためのビーコン信号の送信、レーザ光の伝搬データ等の蓄積データの地上への送信、可変ビームの通信信号の広域エリアへの送信機能の実現を目標としています。
■ 地上セグメントの概要

通信ミッションと対向する地上セグメントは、Ka 帯地球局、光通信地上局及び管制機能等で構成されています。

  • Ka帯地球局:Ka帯の通信ミッション(固定/可変/共通部通信サブシステム)との間で通信を行う地球局
  • 光通信地上局:光フィーダリンク通信サブシステムとの間で通信を行う地上局
  • 管制機能:ネットワーク管制機能(通信リソースの運用計画作成する機能)、衛星管制機能(通信ミッションを監視制御する機能)

地上セグメントでは、通信ミッションの持つ通信リソースの可変機能を有効に制御して通信トラヒックを効率良く収容するネットワーク統合制御技術を、管制機能を通じて実証することを目指しています。

(総務省委託研究「多様なユースケースに対応するためのKa帯衛星の制御に関する研究開発(令和2年度-令和6年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、国立大学法人東京大学、国立大学法人東北大学、株式会社天地人、三菱電機株式会社)」にて一部を開発)

技術試験衛星9号機(ETS-9)を活用した実証のイメージ

用語解説

ハイスループット衛星

Ka帯などの高い周波数帯の電波を用い、100ビーム級のマルチビームによって大容量通信を実現する通信衛星


フィーダリンク

通信衛星と大容量のゲートウェイ局を結ぶ双方向の通信回線


周波数フレキシビリティ

衛星中継器において各ビームに割り当てる帯域幅を可変とすることで、限られた周波数資源の有効利用を図る技術。この技術を利用することで、災害時など時間的に変動する通信トラヒックに対し、柔軟にリソース割当ての最適化が可能となる。


デジタルチャネライザ

周波数フレキシビリティ機能を実現するための衛星搭載機器


デジタルビームフォーマ(DBF:Digital Beam Former)

エリアフレキシビリティ機能を実現するための衛星搭載機器


エリアフレキシビリティ

衛星中継器において信号の振幅と位相を制御することで、ビームの形状や位置を軌道上で柔軟に変更可能な技術。この機能を利用することで、通信トラヒックが集中するエリアにビームを配置したり、特定のユーザ局を追尾するなど、柔軟にリソース割当ての最適化が可能となる。


各技術等の解説

各技術等の解説については、下記ページを参照ください。

成果

査読付き研究論文
  1. Yuma Abe, Hiroyuki Tsuji, Amane Miura, and Shuichi Adachi: Frequency Resource Management Based on Model Predictive Control for Satellite Communications System, IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, Vol.E101-A, No.12, pp.2434-2445, 2018.
  2. Kazuma Kaneko, Hiroki Nishiyama, Nei Kato, Amane Miura, and Morio Toyoshima: Construction of a Flexibility Analysis Model for Flexible High-Throughput Satellite Communication Systems With a Digital Channelizer, IEEE Transactions on Vehicular Technology, Vol.67, No.3, pp.2097-2107, 2018.
  3. 三浦 周, 織笠 光明, 辻 宏之, 藤野 義之, 小石 洋一, 小林 直樹, 熊谷 健夫, 松崎 敬臣, 地上/衛星共用携帯電話システム用DBF/チャネライザの開発, 電子情報通信学会和文論文誌B, Vol.J97-B, No.11, pp.1032-1042, 2014.
国際会議発表
  1. Yasushi Munemasa et al.: Advanced Demonstration Plans of High-Speed Laser Communication "HICALI" Mission Onboard the Engineering Test Satellite 9, 37th International Communications Satellite Systems Conference (ICSSC2019) (2019/10/31)
  2. Amane Miura et al.: On critical design of bandwidth-on-demand high throughput satellite communications system technology, 25th Ka and Broadband Communications Conference (2019/10/02)
  3. Yuma Abe, Mitsugu Okawa, Amane Miura, Kazunori Okada, Maki Akioka, and Morio Toyoshima: Performance Evaluation of Frequency Flexibility in High Throughput Satellites: An Application to Time-Varying Communication Traffic, 32nd International Symposium on Space Technology and Science (ISTS2019) (2019/06/18)
  4. Takuya Okura, Amane Miura, Teruaki Orikasa, and Shinji Senba: A Parametric Study on the Self-Calibration Method of Systematic Errors for Onboard Digital Beam Forming Array Fed Reflector Antenna Using Gating Process, 32nd International Symposium on Space Technology and Science (ISTS2019) (2019/06/18)
国内学会発表
  1. 三浦 周ほか:技術試験衛星9号機通信ミッションの概要と固定ビーム系通信ミッションの状況,第63回宇宙科学技術連合講演会(2019/11/06)
  2. 宗正 康ほか:技術試験衛星9号機光フィーダリンク通信サブシステムの開発,第63回宇宙科学技術連合講演会(2019/11/06)
  3. 阿部侑真,大川 貢,三浦 周,岡田和則,秋岡眞樹,豊嶋守生:周波数フレキシビリティを有する衛星通信システムの総合評価,第63回宇宙科学技術連合講演会(2019/11/06)
学術解説
  1. 三浦 周,久保岡 俊宏,坂井英一:技術試験衛星9号機による次世代ハイスループット衛星の通信技術確立に向けた取組み,電子情報通信学会誌,Vol. 102,No.12,pp.1080-1084,2019.

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