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PEOPLENICTで働く人たち #7
社会を動かせる可能性を求めて、NICTへ。
現在は、多くの企業や省庁の協力と理解を得て、
無線安定化プロジェクトのリーダーを担っています。

ホーム/板谷聡子|PEOPLE

板谷 聡子ITAYA Satoko 経営企画部 企画戦略室
総括プランニングマネージャー
ネットワーク研究所 ワイヤレスネットワーク研究センター
ワイヤレスシステム研究室 研究マネージャー(兼務)
オープンイノベーション推進本部
総合プロデュースオフィス エキスパート(兼務)

※インタビュー時
ワイヤレスネットワーク総合研究センター
ワイヤレスシステム研究室
主任研究員

奈良女子大学を卒業後 、セイコーエプソンに入社。その後、入社1年で退職し、アルバイトをしながら博士号を取得(理学)。2002年から国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)にて無線アドホックネットワークの研究に従事、上級研究員やグループリーダーを務める。転職し、NEC中央研究所を経て、2014年にNICT入所。製造現場の無線安定化に向けたプロジェクトを牽引している。

板谷聡子主任研究員

専業主婦志望だった私が、国際会議への出席をきっかけに、博士号を取得することを決意。

私の両親は2人とも博士号を持っていますが、私自身は社会人になるまで研究者ではなく専業主婦になりたいと思っていました。得意科目は音楽や美術などの芸術系でしたし、就職するまではまさか自分が研究員として働くようになるとは思っていませんでした。
研究者への道は、セイコーエプソンに入社した社会人1年目に始まりました。最初の配属先が、希望していた「事業部」ではなく「研究所」だったのです。入社後は様々な業務がありましたが、研修のひとつとして国際会議に出席したことによって変化が起きました。世界の研究者たちと肩を並べて議論したり、リーダーとなって社会を動かしたりするには「博士号」が必要だと気付きました。そして、上司と相談し、博士号を取得するために同社を退職しました。
私が専攻した分野は「複雑系」と呼ばれるもので、ワイヤレスネットワークから始まり、経済学、生物学、人体の流動、ウイルスの流行などなんでも「テーマ」になりました。博士号取得後はATRに入社したのですが、すぐに無線技術の研究を立ち上げるミッションを課され、数年後にはグループリーダーとなり、気づけば部下が10人ほどいました。 その後、NEC中央研究所に転職しました。そこで一度、無線通信から離れ、NECの将来のビジョンを描く仕事に就きました。その経験を通じ、研究で社会へ貢献したいという想いが強くなりました。NICTでは複数の企業を巻き込んだダイナミックな研究開発ができると考え、入所することを決めました。

CEBIT2017で展示説明を行う板谷主任研究員

NICTへ入ってすぐ、新プロジェクトを立ち上げるために潜在化した未来の課題を見つけてビジョンを描き、協力者を増やしていきました。

NICTに入所した当時は、実績も、人材も、研究資金もない状態でした。
選択肢は他にもありましたが、私は1から新しいプロジェクトを立ち上げることにしました。まずは、未来から次に何をすべきかを考える「バックキャスティング*1」という手法を使い、未来をICTでサポートする「少子高齢化による製造業の変化」という課題をターゲットとして定めました。テーマを決めるにあたっては、災害が起きたときに製造業が立ち直るため、そして社会が早くリカバリするためには何がどれだけ必要かを追究しました。ひとつの工場が被災しても、持っている技術を使って他の工場で素早く生産を再開できれば立ち直れます。自動車産業のサプライチェーンは層構造になっており、下請け企業は納品ができなかったらアウトです。このようなところにICTがサポートする余地があると考えました。ここで鍵になるのが、代理製造を安心して他社に依頼できるかどうかです。
そこからは、上司や周囲の人たちに「これが潜在的なニーズであり、NICTが取り組むべき課題だ」と説明してまわりました。また、皆さんから理解を得るための一手段として、いつでもどこでも製造を可能にする「On-Demand Manufacturing」というビジョンを描きました。このビジョンを発信したところ、まずメーカーの方々が興味を持ってくださいました。
入所して1年後にはメンバーが集まり、「Flexible Factory Project (FFPJ)」ができました。その後、大手の自動車会社さんが全面的に協力すると言ってくださり、学会や講演でも呼びかけを続けていくうちに、さらに人が集まりました。立ち上げ当初は、参加企業が数社だったのが、今では約17社、協力研究員は80名以上、工場は約20工場まで膨らみました。全体で100人を超える体制です。総務省や経産省のご理解とご協力をいただく必要性も強く認識していて、両省には様々なことを相談しながら進めています。


*1 バックキャスティング (backcasting) : 1982年にJohn B. Robinsonにより造られた計画のためのメソッド用語で、数十年後の将来の社会目的や目標、企業戦略などを立てるための手法のこと
稼働中の工場で実験を行う板谷主任研究員

研究や事業を「傘」として捉え、無線技術を「軸」に、「軸以外」をフレキシブルに変えるのがスタンス。
現場の職人さんをもっと輝けるようにしていきたいです。

仕事の進め方としては、研究や事業を「傘」として捉え、絶対変えない「軸(骨組み)」を持ち、「傘布」を柔軟に変えていく、というアプローチをとっています。軸を大切にする姿勢は、意外なところで役に立ちます。FFPJも当初はなかなか認められませんでしたが、軸の周りの要素の角度をちょっと変えてみるなど、傘布の部分を変えて相手と調整します。大変なことはそれなりにあって時には凹みますが、私は一度やろうと決めたことは諦めません。踏みつけても踏みつけてもまた生えてくる雑草のようで、周りには「立ち直りが早すぎる」と言われています(笑)。
私は信念をもった職人さんが好きです。目をキラキラさせながら自身の「こだわり」をお話してくださる姿が好きなので、彼らがもっと輝くように、そして困らないようにするにはどうすべきか、それを考えて形にしていきたいですね。 周りからは「板谷さんは完璧ではないから良いよね」と言われます。一人で全てをこなせないんです。工場内でよく道を迷うなど、研究者らしからぬ鈍くさいところが面白がられます(笑)。

私の研究成果

工場における無線技術標準化策定のためのアライアンスを立ち上げ、システム工学戦略として、無線プラットフォームの技術仕様を策定しました。

FFPJでは、稼働中の工場で無線通信性能の評価実験を実施し、現場独特の無線環境の変動と用途に合わせた、適応的無線制御方式の実現を目指しています。そのために、非営利の任意団体「Flexible Factory Partner Alliance(FFPA)」を設立し、複数の無線システムが混在する環境下で安定した通信を実現する「協調制御技術」の規格化や人材育成、国際連携等に取り組んでいます。FFPAの会長はドイツ人工知能研究センター(DFKI)のアンドレアス・デンゲル教授で、私は副会長を務めています。
FFPAが提唱する規格のコアとなるのが、Smart Resource Flow (SRF)です。SRFは、マルチレイヤシステム分析を用い、人や設備など製造に関わる資源がスムーズに流れるよう管理するシステム工学戦略です。FFPAは、SRFを軸に、同一空間に共存する他のアプリケーションの通信状況を見ながら、チャネルや通信速度を適応的に制御して電波干渉を回避する無線プラットフォームを開発し、通信の遅延抑制に成功しました。この無線プラットフォームの技術仕様はFFPAによりver1.0が策定され、関連項目の一部はIEEE802.1で標準化が進められています。
これらの成果は製造以外の分野にも生かせることが見えてきたので、2020年度からは「Flexible Society Project」として、物流や医療、教育などでのターゲットアプリケーションの検討を開始しています。

三菱重工工作機械さんでの実験にて

私のオフタイム

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就職するまで海外旅行すら行ったことがなかった私ですが、国際会議で隣に座ったドイツ人の主人と出会い国際結婚をしました。余暇は家事をするのが好きです。休日は家族の要望を満たすために、料理づくりに邁進しています。毎年12月はクリスマス用にクッキーを焼いています。ダイニングテーブルにクッキーを置いておくと、家族の会話が弾みます。多い時では300枚くらい焼きますね。ドイツのクリスマスは長くて、正月は鏡餅とクリスマスツリーが並び、家の中はとても賑やかです。

※写真はイメージです

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